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第8話 異世界の異母妹

Autor: 青砥尭杜
last update Data de publicação: 2025-01-30 21:49:36

 地球とテルスの違い。

 その最たるものである魔法の有無が及ぼした影響の中でも、歴史を動かす戦争の形態を左右してしまう兵器の相違は大きい。このテルスという異世界を理解する上でキーになる。

 そう直感したカイトは疑問点をありのまま口にした。

「兵器が未発達。そこだけ聞いちゃえば、この世界はとんでもなく平和なのかも? と思えちゃいます。けど、つい二年前にも戦争があったっていうことは……戦争が兵器じゃなく魔法。兵士じゃなくて魔道士が、戦争での兵力を担っているってことですか?」

 カイトの推測を肯定するようにケンゾーはゆっくりと首肯した。

「ああ、その通り。魔法が使える魔道士と、どんなに鍛えようが魔道士ではない一般の兵士。その両者には力の差がありすぎる。兵力に差がありすぎれば、国家の輪郭を担う国防も機能しない。国家が機能していない混沌は大国も望まない。その結果、このテルスでの戦争は、戦場において国家の全権代理人である筆頭魔道士団に属する魔道士による勝負で決着が付けられるってのが基本になってる。その点だけで言えば、きみが言ってた中世に近いのかもしれないね」

 ケンゾーが説明したテルスという異世界の大まかな仕組みについては理解できたカイトだったが、全権代理人という聞き慣れない言葉だけが妙に浮いて聞こえた。

「全権代理人、ですか……それじゃあもう軍人というより、戦国時代の武将……いや、もっと前の三国志の将軍か、いっそ考えられるだけ古い古代文明の英雄……みたいな存在に聞こえますけど、俺には」

 カイトの挙げた例えを聞いたケンゾーは、一理を認める微苦笑を浮かべながら首肯してみせた。

「きみの感覚はズレてないよ。三国志の将軍なんかは例えとして的を射てると俺も思う。とにかく魔道士の数が少ない点も含めてね。およそ九十万人に一人と言われてる魔道士は、ドラゴンから魔力を賜ったとされる神祖と呼ばれる魔導師の末裔ってことになってる。それが真実かどうかは別として……テルスでの定義は、長い年月で血が薄まりながらも遺伝によって魔力が伝わってるってことになってる。ただ、魔道士の子供が常に魔道士って訳でもなくてね。逆に魔道士が何代もいなかった家系に突然、魔道士が産まれるケースもある」

 多くのファンタジー作品に触れてきた免疫のおかげで、ケンゾーがつらつらと述べるファンタジー要素てんこ盛りの見解をすんなりと理解したカイトは、

「隔世遺伝みたいなものですか……いきなり魔道士が産まれちゃった家は大変でしょうね……」

 と素直に自分の感想を口にした。

 カイトの飲み込みの早さに感心したことをケンゾーは隠さなかった。

「きみが仕組みを理解できないアホでも、厭世家を気取るバカでもないってことが分かって安心したよ」

 口角を上げたケンゾーが、にんまりとした笑みをカイトへ向けてから説明を続ける。

「きみの推察は正しい。魔道士の立場は特殊だ。魔道士として生まれると、大抵は四歳で魔道顕現発達と呼ばれる特異な成長が現れるんで魔道士だと分かる。その時点からその子は国家の監理下に置かれる。魔道士団への入団は義務で、拒否できない。無事に成長すれば、その立場は君主や元首の次に来る。貴族より上になる国が多い。そのせいで魔道士に対する敬称としての卿のほうが、公爵に対する閣下よりも上位になるなんて矛盾も出てきたりする。爵位名とか家名じゃなく、名前にそのまま敬称がつくのは魔道士だけ。きみもサイオン公としての閣下より、これからは魔道士としての卿で呼ばれることが多くなるってわけだ。しかも聖魔道士としてね」

 ここまでケンゾーの口から説明を聞いたカイトは、いよいよ自分がライトノベルやマンガで定番になった異世界ファンタジーの登場人物になったような気がした。

 ふう……と目立たない程度に一度だけ小さく息を吐いたカイトが、

「覚悟しておきます。それで、その肝心の魔法って、具体的にはどんな……」

 と質問を次に進めようとした時だった。

 書斎のドアが小さく等間隔に三回ノックされた。

「どうぞ」

 ケンゾーがドアに向かって声をかける。

「失礼いたします」

 軽やかなのに下品な響きのない声の持ち主は、スムーズに挨拶を済ませながら書斎に入室した。

 小柄で十三,四の年の頃に見える、艶やかな亜麻色の髪と琥珀色に輝く瞳を持つ少女は、

「おじい様。少しだけ、お邪魔してもよろしいですか?」

 と輝く笑顔を浮かべてみせた。

「ああ、構わないよ」

 ケンゾーが少女に向ける微笑みはおだやかなものだった。

「ありがとうございます。お兄様に早くお目にかかりたくて……我慢できずに来てしまいました」

 自分の容姿と年齢で許される茶目っ気を理解している様子の少女が言うと、柔和な笑みを浮かべたケンゾーが、

「そうかそうか、耳が早いな」

 と愉快そうに応じてから、カイトに視線を移した。

「カイト。ダイキの娘だ、きみの妹だよ」

 想定できなかった展開に「えっ?」とカイトの素直な驚きが声になって漏れる。

 少女はカイトの目をまっすぐに見てから微笑むと、優雅な所作で頭を下げてみせた。

「お初にお目にかかります。マヤと申します。お兄様」

 もとの世界では実母と再婚相手の娘である異父妹。異世界に来たら今度は異母妹。

 二人目の妹が急に現れた事実を、カイトは自分でも呆れるほどあっさりと受け入れた。

(まあ、そういうこともあるか……父さんもまだまだ現役ってわけだ。なんか俺は、かわいい妹に恵まれる星の下に生まれたらしい……)

 マヤが会話に加わったことで、自然と話題は異世界のレクチャーから歓談に変わった。

 十四歳だというマヤは実に聡明で、その言葉遣いや所作はすでに王族然としていた。

「お兄様が優しい方で、安心いたしました」

 自分の目をまっすぐに見て微笑むマヤは、掛け値なしに可憐な王女様だとカイトは感心した。

 ケンゾーが孫であるマヤを可愛がっているのも、その言葉の節々からカイトは感じ取った。

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